佐々木美郷さんは、秋田市中心市街地のビルでVIVANT MAKEUP WORKS(ヴィヴァン・メイクアップ・ワークス)というメイクアップの専門店を経営しています。結婚と同時に首都圏から秋田に移住し、子育てをしながら秋田の魅力を発信する活動や、得意のメイク技術を活かし秋田駅に近い仲小路商店街で起業を果たしました。移住者である佐々木さんが、商店街にお店を構えるまでの経緯と、今後の夢について語って頂きました。
秋田への移住
佐々木さんは新潟県のご出身。長岡市の高校を卒業後、憧れだった海外に飛び出します。本当はニューヨークに行きたかったのですが、2002年の同時多発テロの直後だったためハワイを選び3カ月留学しました。
ファッションやデザインに興味があり、特にアメリカ文化が大好きだったので、カルチャーを肌で感じたいと思い3カ月間行ってきました。帰って来ても新潟には戻らず、東京でアパレルの仕事や大手化粧品会社で訪問販売の仕事に就きました。化粧品会社の頃は20代前半でしたが、接客だけでなく、在庫管理や顧客管理など、数字を上げるためにどうすればよいかを学ぶことができました。
ずっと東京で暮らそうと思っていたのですが、付き合っていた秋田出身の現在の夫から秋田で起業するので一緒に来てほしいと頼まれ、2016年に一緒に秋田に移住しました。
「秋田の魅力を知りたい!」~子育てしながらの魅力探し~
秋田に来て半年ほどで双子を出産、秋田のことをよく知らないまま育児に専念することになりました。車の免許を持っていなかった佐々木さんは、しばらくはベビーカーを押しながら秋田市内の散策や秋田駅周辺の子育て施設を訪ねていました。
私は家でじっとしていることが苦手だったので、子どもを連れてなるべく外に出るようにしていました。秋田のことを何も知らなかった私は、同じ子育て世代のお母さんたちと話すときは秋田の魅力を聞くようにしていましたが、皆さん口を揃えて『何もないよ』と言うんですよ。そんなことはないだろうと思いましたが、少なくとも、子どもたちには生まれ育った秋田を誇りに思ってほしいと感じたので、自分の目で秋田の魅力を探そうと決めました。
行動力に優れた佐々木さんはすぐに車の免許を取り、秋田県内の市町村を全部回ってみようと思い立ちました。
「1000人としゃべろう!」と目標を決めました。それだけコミュニケーションと刺激に飢えていたんですね。そうして出掛け始めてみると、自然がきれいだし、人が温かい。子ども連れだったせいもあって、行く先々のみなさんが気軽に話しかけてくださって。他愛のない世間話ですが、その方たちの価値観とかが伝わってきてすごく満たされました。
佐々木さんは、毎日のように県内あちこちをまわった結果、「秋田、すごくいいとこじゃん」と感じるようになり、魅力を発信していきたいと考えるようになります。
秋田の魅力を学生たちと情報発信
まちづくりイベントに参加するようになってから県外から来ている学生たちと知り合いました。デザイン・芸術で町おこしに取り組む彼らと意気投合し、一緒に「まちづくりラボ」という団体を立ち上げ、秋田の魅力的な観光情報をYouTubeで発信したり、古民家を利用したイベントなども主催しました。しかし、秋田の魅力を発信するうちに、佐々木さんは経済的基盤がない自分が町おこしに取り組むのは本末転倒だと思うようになります。
専業主婦である私が夫の稼ぎで町おこしをするのは、地に足がついていないと思ったんです。その頃、着物をリメイクする団体からファッションショーのメイクを頼まれ、引き受けたのがきっかけで、メイクに悩んでいる人のアドバイザーになろうと考えました。以前、化粧品会社で学んだ知識を活かし、プチプラ(安い)化粧品から高級化粧品まで、ブランドにこだわらずいい化粧品をおすすめする仕事を始めようと思いました。
悩める女性をメイクで幸せに ~メイクアップ・セラピストとして起業~
佐々木さんは、自身の経験からメイク・アドバイスで悩める女性を幸せにできるという確信がありました。
私も子育て中心の生活で、肌の手入れができずシミができて気分が重くなる経験をしてきました。そんなときでもメイクでシミを消すと一気に気分が上がるんです。メイクで前向きになれることをたくさんの人に教えたいと思いました。
佐々木さんは、メイクによって人は変われると思い「メイクアップ・セラピスト」を名乗っています。
最初は店舗を構えず口コミやSNSで少しずつ仕事を増やしていきました。主な顧客層としては、20代から40代の子育て世代が多いそうです。
女性向けフリーペーパーに掲載されたのをきっかけに、さばき切れないほど予約が増えました。顧客が喜んでくれることが嬉しく自信にもなり、レッスンのたびに場所を借りるのでは追い付かなくなったため、店を出したいと思うようになりました。
商店街にスタジオをオープン
そんな相談を友人にしたところ、既にネイリストとして独立している方を紹介してもらいました。その方は、一足先に仲小路ビルで起業を決めていたので、佐々木さんの相談を聞くと、すぐにビルの見学に誘い、その場でオーナーに電話をしてくれました。とんとん拍子で賃貸契約や改装の話がまとまり、2021年7月にVIVANT MAKEUP WORKSのオープンに漕ぎつけました。
仲小路ビルは素敵なビルだと思っていたのですが、まさか借りられるとは思っていなかったのでとても嬉しかったです。その時は、すぐに店を出そうとも思っていなかったんですが、いろんなラッキーが重なって、すぐにやるしかないという気持ちになりました。
事業計画は慎重に立て、補助金がなくてもやっていけるように予算を組みました。前年度のうちから翌年度の年間計画を立て、キャンペーンの時期やターゲットとする顧客層、新規顧客・既存顧客で異なるマーケティング戦略、売上予想も詳しく決めました。
オープン時はコロナ禍の真っただ中でした。この時期、マスクをするからお化粧をおろそかにする人が増えていると思われていましたが、マスクをした時のメイクや肌荒れで対策に悩む人も多く、実はメイクに興味を持つ人が増えていたようです。
また、店舗での施術だけでなく、顧客が安心できる場所まで出向きマンツーマン形式の施術も行っていたので、顧客からの信頼が厚かったこともコロナ禍の影響を受けなかった要因のひとつだといいます。
商店街での夢
佐々木さんは、仲小路振興会に加盟しており、お祭りやハロウィーンのような年中行事の時には準備や片付けの手伝いをすることもあります。佐々木さんは、秋田の人は美への意識が高いと感じており、現在の顧客層よりも上の世代の女性で、この商店街に親しみを持つ層にも美を提供していきたいと考えます。
仲小路は秋田の中でも都会的な通りだと思っています。マダム向けのブティックさんたちも頑張って素敵な飾り付けをしているし、中心市街をおしゃれな大人が歩いていれば若者も刺激されると思います。秋田の女性の中には、年齢を重ねた自分を楽しんでいらっしゃる方々がいて、着物をおしゃれに着こなす人もいれば真っ赤な口紅と黒縁メガネが似合うかっこいい人もいます。駅から歩いて市内を観光する観光客の動線にもなっているので、私はここを美しい大人の女性が行き交う商店街にしたいと思っています。
商店街は、店舗同士につながりや一体感があって、そこを楽しいと感じる人の輪ができあがっていく場所だと思います。インスタグラムなどのSNSを使って、たくさんの楽しい情報を発信し、一人でも多くの人にこの魅力を知ってもらいたいです。
そのためにも、もっと面白いチャレンジをしていきたいです。外部の人からアドバイスを受けたり、セミナーなどに参加して他の商店街の事例や、もっと来たくなるような仕掛け方を勉強していきたいと思います。
しばらくお休みしていた秋田の魅力の掘り起こしや情報発信も再開したいと思っているそうです。佐々木さんの夢は、この通りで素敵な大人たちのファッションショーをやること。仲小路を歩行者天国にして、カーペットを敷いて、ブティックやモデルクラブの方たちと一緒に。
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