大館市で地域おこし協力隊として働く三澤雄太さんと舞さんの夫妻が今年の夏、空き家問題の解決のために必要な各方面の専門家を集めてNPO法人「あき活ラボ」を立ち上げ、大館にとどまらず全県で空き家問題の解消に取り組みたいと考えていることを知り、お話を聞いてみることにしました。
三澤さん夫妻は大館市出身で、2019年に市の事業を受託するフリーランス地域おこし協力隊として大館市に帰ってきました。フリーランスの地域おこし協力隊というのは、地域おこし協力隊という本業を持ちながら、幅広い活動することができるのが特徴です。
移住する前、二人は雄太さんがシステムエンジニアとして働く長野市で暮らしていました。その頃、長野市の善光寺門前では古民家や空き家のリノベーションが進んでいて、町が変貌するのを間近で見て、自分たちも大館のために何かできるのではないかと思うようになり、Uターンを決意しました。
フリーランス地域おこし協力隊
雄太さんは地域おこし協力隊として市の業務を受託する傍ら、副業としてウェブ・映像制作やITのコンサルティングなどを行う「Around-O(アラウンドオー)」を起業しました。元々の地域おこし協力隊の制度は市町村の臨時職員という位置づけだったのですが、大館では19年から役所に雇用されないフリーランスの協力隊の制度を導入しています。
彼らの任務は、市が「お試しサテライトオフィス」として運用している施設に滞在している都会の会社員が滞在中に大館暮らしを楽しめるように名所を案内したり地域の事業者との交流の場を作ったりするお試しサテライトオフィス事業のコンシェルジュ。大館市ではベニヤマ自然パークにあるコテージや大館駅前のシェアオフィス「MARUWWA(マルーワ)」に都会のワーカーを受け入れています。2017年に始まったお試しサテライトオフィス事業で大館を訪れた企業は既に100社を超えるそうです。
しばらく大館で暮らすうちに、三澤さんたちは、いろんなことが気になってきました。その一つが空き家でした。
可能な住宅については、売却や賃貸を希望する人が行政や不動産仲介業者に相談すると、空き家バンクで物件の検索ができるよう掲載してくれる自治体が多いですが、なかなか利用が進まないのが現実です。
そもそも相続などで住宅を管理することになった家族は、高齢者が亡くなったり施設に入るなどして空き家になってしまっても、住んでいた人の心情を慮ってなかなか動き出せません。それに、人に貸すとお金に困っているのではないかと思われるんじゃないかとか、借りた人と何かトラブルが起きたりすると嫌だと二の足を踏む人が多い。いざ行動に出るのは物件が劣化し修繕に大きな費用が掛かったり、周辺住民の苦情を受けて行政から対応を求められてやむにやまれずということが多いそうです。
大館市も空き家バンク制度があるほか、民間の不動産マッチングサービスの「カリアゲJAPAN」や「空き家ゲートウェイ」といったサービスもあります。また、解体撤去費や、令和3年度は予算の上限に達してしまったようですがリフォームの支援制度もあります。しかし、日本人は基本的に新築好き。古い家を修繕しながら何百年も使うことが基本の欧米とは違い、すぐに壊して新しい家を建てたがります。三澤さんたちがこれほど空き家問題を心配している大館市ですら新しい家がどんどん建つ新興住宅地があるのです。
ただ、最近は地方の活性化に役立ちたいと考える若い人たちを中心に、街の景観に溶け込んだ古い家に住むことを好む人たちや古いことを気にしない人たちが増え、需要はあるようです。空き家を地域の資源と考え、その利用をサステナブルな生き方に合致するという考え方が根底にあります。
しかし、住みたい人がいても、ちょうどいい空き家というのはなかなかない。あるいは、今やゼロ円物件だけを扱うウェブサイトさえある令和の時代に賃貸料が「昭和のまま」だったりするのだそうです。
また、空き家バンクに登録される物件は賃貸より売却物件が多いのですが、そうした家に住みたい若い移住者にとっては、いきなり何百万の借金をして家を買うのはちょっと荷が重い、というミスマッチも起きているとか。
そうこうしているうちに家は劣化していく。宅地建物取引士の資格を持つ舞さんによると不動産流通業界では成約に至った物件の約半数(48%)が、空き家になってから1年以内に売り・賃貸に出された物件で、それ以降はガクっと成約率が落ちるのだそう。
ふだん街を歩いていて見かける、とても人が住めそうには思えない空き家。空き家というとそういう家を思い浮かべますが、いい空き家はすぐに借り手や買い手がみつかり空き家バンクに長く掲載されることはないので、普通に思い浮かべる空き家よりずっとよい状態なのかもしれないと思いました。
いい家には需要がある。しかし、人が住まないとあっという間に家の価値は下がり、そうした家は資産ではなく税金ばかりかかる負債になってしまいます。築年数の古い家には最近の寒冷地の住宅では標準になっているペアガラスの窓や床暖房が付いていないのではないかとお聞きすると、街中にはそうした物件も多いということでした。
実際、三澤夫妻が住んでいるのも築50年超ですが、オーナーさんがリフォームして床暖房が入っていたそうです。また、リフォームも自由にしていいということだったので、友達に手伝ってもらい住みやすいようにリフォームしたそうです。
NPO法人あき活ラボ
さて、三澤さんが呼び掛けて設立したNPO法人「あき活ラボ」は、雄太さんが代表理事を務め、弁護士、司法書士、不動産会社、建築士、解体、遺品整理業者など空き家が抱える問題を解決するためのプロフェッショナルが理事として参加しており、行政と連携して空き家問題に取り組みたいと思っています。
専門家集団なので費用が心配ですが、相談は無料だそうですのでお気軽にどうぞ!
記事の最後にあき活ラボのホームページのリンクも入っています。
三澤さんたちは、空き家問題解消の鍵は予防だと考えています。高齢者が亡くなったり施設に入るなどして空き家になってしまってからその家に住んでいなかった子や親族が管理をし始めると、積極的な利活用には動きづらい。なので、元気なうちに、高齢者自身に「家のこと考えていますか?お盆やお正月など家族が集まる機会に話題にしてみてください。それが親族みんなのためでもあり、社会のためでもある」とお話しさせてもらうそうです。
実は三澤さんたちの空き家事業には、メンバー以外に非常に重要な役割を担っている方がたくさんいます。例えば町内会長さんたちです。三澤さんたちが地元出身で、地域おこし協力隊として2年間の実績を積んできたことで地域の家の事情をよく知っている町内会長さんとも信頼関係を築き、個人情報に当たらないが、空き家の予防対策に必要な程度の情報を所有者の承諾を得て教えてもらえるようにお願いしているのだそうです。
11月からはふらっと立ち寄れる相談窓口も大館市字桂城(けいじょう)の明星ビルに構えました。市役所の目の前です。もちろん、空き家を抱えて困っている子ども世代は遠くに住んでいることが多いので、ホームページやチラシを介してメールや電話でやり取りをすることも想定しています。
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